日本の急速な高齢化は医療業界に大きな影響を及ぼしています。高齢者人口の増加に伴い、医療サービスの需要が急増し、社会保障費も年々増加しています。このような状況で、病院や診療所の経営は大きなプレッシャーにさらされており、M&A(合併・買収)が有力な解決策として注目されています。効率的なリソース管理を実現し、高品質な医療サービスを提供するために、企業はM&Aを通じて資源を確保し、経営の安定を図ろうとしています。本記事では、医療業界の最新のM&A動向と事例について徹底解説します。
目次 / contents
医療業務には、医療法に基づく以下のような特徴があります:
これらの特徴は、医療業界を理解する上で重要なポイントです。
また、医療法人は、事業会社と異なり株式を発行していないため、M&Aには基本的に以下のスキームが利用されます。
①合併:2つ以上の法人を1つに統合
②出資持分譲渡:譲渡議決を行使出来る地位の譲渡
※出資持分:医療法人に金銭等の出資を行った者が持つ財産権。出資者が社員であることが多いため、出資持分譲渡という形を取ります。
③事業譲渡:特定の事業に関する資産等を一括して他の法人に譲渡
出資持分ありの形態の際は、出資持分譲渡が比較的多く活用されています。これは、出資持分譲渡によるM&Aが比較的短期間で行えるためです。合併や事業譲渡は、事前に行政に申請して許可を得る必要があり、手続きが煩雑となることから時間がかかることが多いです。一方、出資持分譲渡では役員の変更届出や理事長の変更登記等の手続きが主なもので、比較的短期間でM&Aが完了します。
病院・医療法人業界では、直接売上高や病院数の減少、医療コストや人件費の高騰、診療報酬の引き下げ、施設・設備にかかるコストの問題等が経営に影響を及ぼしています。これらの問題を解決するため、M&Aによるグループ化の流れが活発化しています。
特に最近では、医師不足や経営難、施設の老朽化等の問題を抱える病院・医療法人が、地域の救急ニーズに応えるために病院事業を社団法人に譲渡するケースが増えています。また、患者の受け入れ数の増加や診療地域の拡大を希望する医療法人や、病院事業に新規参入したい異業種の企業もM&Aに注目しています。M&Aを実施すれば、新規開設よりも短期間で既存の病院や有資格者を獲得出来るためです。
具体的な事例を以下に紹介します。
株式会社東芝は、2017年10月にカマチグループに所属する医療法人緑野会へ東芝病院の譲渡を行いました。東芝病院は最新機器や総合医療情報システムを導入しており、1945年から続く歴史ある病院です。元々は東芝で働く社員のための企業立病院として発足し、地域住民の医療も担ってきました。カマチグループは1974年に設立され、回復期リハビリテーション医療に尽力しながら、24時間365日体制のER救急センターを運営しています。この譲渡により、東芝病院の医療の質がさらに向上することが期待されます。
株式会社メディカルネットは、2023年8月に連結子会社である株式会社オカムラと株式会社オカムラOsakaの吸収合併を決議しました。オカムラを存続会社とし、オカムラOsakaを解散する形です。メディカルネットは、歯科医療分野でプラットフォーム事業を展開する企業で、歯科ディーラー事業に取り組むオカムラを2018年に完全子会社化し、2022年に大阪での事業拠点としてオカムラOsakaを設立しました。今回のM&Aは、事業活動の一本化や業務効率化によって成長を加速し、収益性を向上させることを目的としています。
M&Aを行うことで、医療法人や病院には以下のような経営改善が期待出来ます。
M&Aを通じて新たな経営資源や技術を導入することで、診療効率が向上し、患者に対するサービスの質が改善され、医療機関全体の運営が改善されます。
統合後のリソースの最適化により、運営コストの削減が実現します。これにより、医療機関の経営が安定し、より効率的な運営が可能になります。
M&Aによって地域医療の継続が確保されます。医療機関が経営難で閉鎖されると、地域住民に大きな影響を与えます。特に地方では、唯一の医療機関の閉鎖が医療アクセスを大幅に低下させるリスクがあります。M&Aを通じて新たな運営体制を整えることで、地域医療の安定供給が維持され、地域社会全体に貢献することが出来ます。
病院・医療法人業界では、赤字経営や医師・看護師の人材不足等の課題から、近年M&Aが活発に行われています。売上規模の拡大と医療施設の減少による経営難や人材不足は依然として課題ですが、病院の再生スキームやM&Aによるグループ化によって問題解決の可能性が高まっています。ただし、医療業界には独自の規制が存在するため、組織再編は非常に複雑です。検討の際には、早い段階で専門家の意見を聞くことをお勧めします。
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